• 発表1
    • 全体のまとめ

    • 浮ヶ谷幸代(千葉大学)

    • 要旨
       近年、日本の医療人類学研究の流れとして、A.KleinmanやB.Goodが提唱した「病いの 語り」研究やそれを援用した医療の臨床での「語り」研究が、聞き取り調査を基に質的 研究という手法をとりながら活発化している。たしかに「語り」研究は、臨床への応用 とともに病む側の主観的な経験を微細に描き出すことから、生物医学の道具的合理性に 抗する手法の一つとして貢献してきた。けれども、そこでは病者が研究者に語るといっ たミクロな関係にフォーカスするあまり、病いをもつ人たちが集う場で、人々がそこに 参与するやり方や複数の人によって構成されるコミュニケーションのあり方を描き出す ことは看過されている。
       そこで、本分科会では「語り」を含めた参与観察を中心に、ローカルな場における人 と人との<つながり>や宗教的感受性(霊性)を媒介とした<つながり>のあり方を手 がかりとして、現代日本における病いをめぐる現象を集合的な営みとして捉える研究を 紹介する。核発表者のフィールドは、福祉施設、学習会場、インターネット上のサイト などである。ここでいうローカルな場とは、包摂社会の規範や価値観、法的規制、生物 医療、市場経済、メディアなどの影響を受けつつ、包摂社会の内部で文脈依存的、直接 的な相互交渉を生成する場として流動的に創出されるものとして位置付けている。発表 者は、病む人たちだけではなく、医療関係者や民間治療者、宗教家、家族、地域の人た ちによって構成される<つながり>のあり方にこだわりながら、病いをめぐる苦悩suff eringの経験と<つながり>のあり方との相互連関について考察している。それぞれの 報告は、その場を構成する人たちの認識や実践のあり方(共有、ずれ、変換、変容)、 また「排除の機制」や「出入り自在」という観点から、病いをめぐる人たちの<つなが り>のあり方を多層的に描き出す民族誌となるはずである。
       各報告を通して、現代日本において病いの経験を軸に創出されるローカルな場は、包 摂社会の内部でどのような存在意義をもちうるのだろうか、またこうした視座は医療人 類学研究の中でどのように位置付けられるのだろうか、という問題へとつなげる可能性 を示したい。

      キーワード:病いsuffering、<つながり>、ローカルな場、参与観察、民族誌