• 発表3
    • コミュニケーション不全の中で成立する<つながり>:外国人・(精神)障害者・健常者を含む福祉施設「ユリノキ村」にて

    • 山本直美(自治医科大学)

    • 要旨
       本報告の対象である「ユリノキ村」は、生物医学により精神障害者とみなされる人々 を主成員としており、1990年代半ばに地方公共団体により社会福祉施設として認可され た施設である。ただし、ユリノキ村は、「他に行き場のない人」を受け入れるという創 設以来の漠然とした成員設定のため、知的障害者、身体的障害者、また長期のモラトリア ム状態にあるとみえる健常者も含む。さらには日本人のみならず、外国人の障害者、健 常者も含む。こうした成員の多様な背景のために、ユリノキ村は、慢性的なコミュニケ ーション不全の状況を呈している。成員の共通項を強いて指摘するならば、職場、地域 社会のみならず家族との間でも安定的な<つながり>を持ち難くなったというsufferin gの経験が挙げられる。本報告では、こうしたユリノキ村において、多年にわたる「共 同生活」を可能にしているような<つながり>のあり方を提示する。
       ユリノキ村の運営方針は、創設以来20数年間運営に携わってきた緒方師という人物 に多くを負う。それは、全成員に対して、自由な認識と行動を極限まで尊重するという 方針である。成員は、自らのsufferingを持て余す中で、引き籠もり、強迫行動、興奮 状態等に至ることがあり、それらは、運営費の浪費や、運営費の大半を賄うべき収益事 業の妨害等に帰結しがちである。しかし、緒方師は、そうした「逸脱」行動を通して こそ各人のsufferingが多少とも軽減する可能性を願いつつ、彼らに何の制裁も与えな い。こうしてユリノキ村は、集団規範を絶えずなし崩しにし、一般的には規範の「逸脱 」者とみなされるはずの人を純然たる成員として包含する、といった場として出現して いる。
       ただし、かつてユリノキ村の成員でありながらも後に退出を求められた人が、ごく少数 ながら存在することも事実である。本報告では、そうした一事例をとりあげ、ユリノキ 村における<つながり>の可能性と限界を考察する。

      キーワード:精神障害者、コミュニケーション不全、集団規範、逸脱、<つながり>