• 発表6
    • 病いのインターネット民族誌:「アトピー」をめぐる苦悩と<場>の構築を中心に

    • 余語琢磨(自治医科大学看護学部)

    • 要旨
       本発表は,アトピー性皮膚炎を病む人々のインターネット上における「病いの語り」 を中心にとりあげながら,その苦悩と日常的実践を探るための方法と視座について述べ ,あわせて,ネット上で病いをめぐる〈場〉がどのように構築されているのかを分析す ることを目的とする。
       まずネット上の語りを扱うという研究法の有効性と限界を論じたうえで,アトピー病 者の多くの苦悩が,疾患にともなう生理的苦痛のみならず,周囲の視線から背負わされ るスティグマや,社会的負のイメージによって生成していることを明らかにする。重症 の病者は,「アトピー」であるために社会・相互行為・心理の各レベルでさまざまな調 整や適応を強いられるが,その困難を乗り越えようとする姿勢には共通性が見いだされ る。それは,病気という劣った規範を柔軟に読み換えようする「病者の戦術」である。 その戦術は,情報の取捨選択,試行錯誤,臨機応変,諸規範の矮小化などを中心として いるが,病いとともに「健康」に生きるうえで必然的な過程であるといえよう。
       このような複合的苦悩によりひきこもりがちなアトピー病者に,普遍的志向・グロー バリゼーションに支配された管理のなかで広がるインターネットは,新たなコミュニケ ーションと自己言及の場所を提供した。そこでは,病者や家族,営利目的のアトピービ ジネス,各種の「適切な治療」を主張する医療者・団体などが,包摂社会からの連続上 にありながらも,さまざまな意図とインタラクションのなかで特徴ある言説空間をうみ だしている。とくに,アトピー病者を中心とする,時空間を超えた直接性をもつ個と個 の〈つながり〉は,ときに状況づけられたローカリティを形成する〈場〉となる。そう した病いと〈つながり〉の〈場〉の関係性や多様性を読み解くことが,病いのインター ネット民族誌がもつ可能性であると考えられるだろう。

      キーワード:インターネット,アトピー性皮膚炎,病者の戦術,つながり,場の多様性