- 発表2
- エスニックマイノリティと聴覚障害:社会のなかの「ハンディキャップ」と関係性のなかの言語
- 植村清加(成城大学民俗学研究所研究員)
- 要旨
報告者はこれまで、フランスのパリ地域において、フランスにおけるマグレブ系移民第
二世代に関する民族誌的調査を行ってきた。私が研究対象としてきた、移民第二世代の
人々は、フランスの文脈では「移民の子供たちだがフランス人」である人々である。フ
ランスの公式的な理念において、言語(とりわけ「社会の言語」であるフランス語の習
得)は、社会統合に欠かせないツールとみなされてきた。フランス語という国民言語の
使用を促進するにせよ、「移民の言語」という異文化言語の使用を尊重するにせよ、人
々の社会統合の鍵を握る場所とされてきた学校教育においては、とりわけ、「家庭の言
語」と「社会の言語」のギャップが、移民の子供たちに背負わされる「ハンディキャッ
プ」としてたち現れる政策が展開されてきたし、言語に象徴される「文化的ギャップの
問題」は彼らの日常生活をとりまく様々な語りのなかでも広く聞かれる。
一方、聴覚障害をめぐる議論においても、移民、つまりエスニック・マイノリティの言
語のハンディキャップ化と同じような形での「差異の特殊化」がみられる。つまり、ハ
ンディキャップとしての「障害」を取り除くためにも、「社会の言語」の習得を促進・
援助することによって社会に「統合」するか、「障害」を一つの文化と捉えて、その文
化の習得を通して、社会の多様性のなかに統合するか、の二つの道である。
しかし、私のメイン・インフォーマントとなっているある家族や彼らをとりまく人々が
、暮らしのなかで行う会話では、そのどちらの道とも異なる「言語」の用い方がなされ
ている。第二世代のうち、末っ子や、第二世代と結婚したフランス人妻たちやその子ど
もたちは、第一世代の話すアラビア語を中心とした会話をほぼダイレクトには理解でき
ない。また、上から3番目の娘は、幼少時の事故が原因で耳が半分不自由であり、彼女
の夫は、いわゆる「聾唖者」である。本発表では、社会において「障害」とされる、あ
る言語が、日常的な関係のなかで、いかなる姿で使用されていくのかを考察する。そし
て、そうした関係性のなかの言語や言語実践が持っている柔軟性や差異の意識、関係構
築の力が、社会のなかでの言語のハンディキャップ化に関する議論に対して、一体どう
いう問題提起を孕んでいるのかを検討していきたい。