• 発表1
    • 高齢患者に対する延命医療としての人工栄養法

    • 会田薫子(東京大学大学院医学系研究科老年社会科学分野博士課程)

    • 要旨
      【目的】
       本邦では脳血管疾患などによって経口摂取と自己決定が困難となった後期高齢患者に対して、人工栄養法を導入するのが一般的であり、なかでも経皮内視鏡的胃瘻増設術(PEG)が汎用されつつある。
       しかし先行研究によると、一般市民の多くはPEGによる延命を望んでおらず、現状に批判的な医療者も少なくない。
       本研究では、PEGの施行要因を探ることを通して人工栄養法施行の背景の一端を解明し、 改革への示唆を得ることを目的とする。

      【方法】
       上記患者群に対するPEGを含む人工栄養法施行の意思決定に関わった経験を有する医師30名(男性25名、女性5名;年齢中央値47歳、26-70歳)に対し、半構造化面接(平均60分)を実施した。
       人工栄養法の施行・差し控えに関わる臨床実践、患者家族への説明、医師としての悩み、 自分自身が患者であればどのような選択をするかについて質問し、Grounded Theoryの手法により分析した。

      【結果】
       長期人工栄養法の中からPEGが選択される直接要因として、〔医療システム関連要因〕と〔PEGの利便性〕が抽出された。PEG施行の背景要因として、〔医師と患者家族の心理的安寧〕、〔患者家族の感情・意向への応答〕、〔法制度関連問題〕、〔脳血管疾患の特徴〕などが抽出され、これらが「人工栄養法を施行しない選択肢を患者家族に提示することの困難さ」を形成していることが示された。
       また、一律の人工栄養法施行に疑問を感じ、「人工栄養法を施行しない選択肢」を 患者家族に提示する医師が少数存在することが示された。これらの医師は、人工栄養法を施行しない場合の法的なリスクを独自の臨床実践によって低減していることが示された。

      【結論】
       「人工栄養法を施行しない選択肢を提示することの困難さ」の背景に、「栄養・水分補給は必須」という直感的倫理観が根強いことが示された。しかし、文献にみる医学的証拠によれば、人工栄養・水分補給を控えた死は苦痛のないものとされ、さらに、多くの研究協力者は自分が患者ならPEGによる延命を望まないと回答した。従って、その倫理観も見直される必要があるといえるのではないか。
       同時に、医師が直面する法的・社会的制裁の脅威を取り除くため、この患者群への人工栄養・水分補給の差し控え・中止を触法行為と認定する恐れがある現行刑法の改正も視野に入れる必要があると考える。そのためには、広く社会的な議論が喚起され、コンセンサスが形成されなければならないと考える。