• 発表1
    • 「つながり」の場としての保健室:保健室の空間機能とその利用の実践に関する予備的考察

    • 田口亜紗(成城大学民俗学研究所研究員)

    • 要旨
       現代日本の学校制度における保健室は、いじめや不登校などの社会問題が深刻化してきた90年代以降、 さまざまな困難を抱える生徒たちの「心の居場所」となりうると、メディアや行政、 学校関係者などに指摘されるようになった。近年では、自傷行為や援助交際などさまざまな今日的問題を 抱えた生徒たちにも対応するべく、学校保健の専門家や一部の養護教諭を中心に、 養護教諭の独自性を活かした新しい保健室経営のあり方が提唱されている。 一方、相談室やスクールカウンセラーの設置により、医療者とも臨床心理士とも役割を異にする 養護教諭の専門性の欠如が指摘され、保健室制度の見直しが行政によって検討されてもいる。
       発表者は、上記のような変遷を続けている保健室が実際の生徒たちにどのように利用されているのかを、 中学校・高等学校での保健室の参与観察で得た知見をもとに報告する。 彼らは、たとえば外傷の手当やカウンセリングを求めるなど、明確に問題化された身体や 「こころ」の不調を訴えるだけでなく、時に息抜きに来たり、泣いたり愚痴を言いに来たり、 ふらふらしに来たり、クラスメートの見舞いに来たりする。保健室が生徒の身体や問題行動を 監視して諸問題に対処するという学校制度内部の管理空間であることは、昔も今も変わらない。 が、そうでありながらそこが現場の人びとによって多様に利用されているのは、 そこが教育的指導や医療的措置、心理学的措置という一義的な機能を強く保持した教室や カウンセリングルーム(相談室)とは異なり、曖昧で多層的な関係性(<つながり>)を 結びうる空間となりえているからのように思われる。本発表では、 そのような保健室の機能とその利用の実践について触れたい。

      キーワード:管理空間、虚と実、モノと語りの往来、苦悩の共有、社交性、秘密の共有 、非言語的コミュニケーション